※本記事記述内容は出来るだけ正確なものと考えてはいますが、あくまで個人的な見解であり、事実に関する疑問点などに関しては各企業、行政機関へお願いします。
神奈川県生活交通確保対策地域協議会に寄せられたある申請書
2021年3月の事ですが、京急バスが神奈川県生活交通確保対策地域協議会に京急ニュータウン野比海岸~YRP野比駅~光の丘2番間のバス路線に関する神奈川県生活交通確保対策地域協議会に係る路線退出等意向申出書を提出しました。
申出書の詳細を見ますと退出予定年月は2022年4月、京急ニュータウン野比海岸~YRP野比駅~光の丘2番間のバス路線廃止との事です。ただしこの区間のバス路線がすべて廃止されるわけでなく並行する久里浜駅~尻擦坂上~YRP野比駅だったりYRP野比駅~YRP方面の外の路線バスが残るために実質的にバスがなくなるのは括弧内の京急ニュータウン野比海岸~野比中学校間、バス停で言えば京急ニュータウン野比海岸、NTTドコモ社宅前だけだと思われます。
神奈川県生活交通確保対策地域協議会は、県内における乗合バスの路線退出等にかかる生活交通の確保方策について、県・国・市町村・バス事業者が協議を行うために平成13年6月13日に設置されました。~中略~
県は、乗合バス事業者から路線退出等の申出があった系統に関し、関係者(事業者、地元市町村)間において、必要な生活交通確保方策に係る協議が調うよう事務局としての活動を行います。
神奈川県生活交通確保対策地域協議会より
さて神奈川県生活交通確保対策地域協議会と言われても何の事やら分からない方も多いと思いますから少し説明を、路線バスの退出などにより影響のある生活交通の確保の為に設置された協議会であり、今回の京急バスの様に路線の退出の申し出があった際に事業者や国・県・市町村などの行政と事業者の間で様々な調整を行う協議会です。
実際京急の申請によって行われる具体的な話し合いは横須賀三浦地域分科会と言う地域分科会であり、県の交通企画課長を座長に市からは交通企画担当課長、当然申出書を提出した京急バスも出席した形で話し合いが行われるようです。
2010年代の横須賀市のバス利用状況
さて横須賀市のコロナ前におけるバスの利用状況を見ていきます。上は横須賀市統計書より作成した横須賀市のバス利用者数の推移です。逗子や三崎と言った市外の京急バスの営業所の数値も含まれていて、横須賀市と言うよりも三浦半島の利用者数と言った方が近いかもしれません。推移を見ると2013年に8%減少、2015年に14.3%増と大きな増減があり注意が必要ですが2016年と2008年を比較すると概ね1割の増加と人口減少が言われる中、増加傾向にあったことが見て取れます。
各営業所ごとの2016年と2012年との比較での乗客の増減を見ますと、逗子市、葉山町をに乗り入れる路線中心とした逗子営業所が30%増加、三浦市に乗り入れる路線を中心とした三崎営業所が6.1%減少と大きくなっていますが他の路線は概ね年1%前後の増加と言う営業所が多いです。
※ちなみに50%増加している湘南京急バス堀内営業所は各営業所のバス路線の運営を請け負う湘南京急バスの営業所でしたが現在再び京急バス本体に吸収されています。
子会社における吸収合併に関するお知らせ@京急バス2017/10/20
その為神奈川県生活交通確保対策地域協議会に申請されるバス路線は2010年代を通じて0であり、多分ですが協議会設置の2001年度からも含めも協議会への申請がないと思われ初めての申請である可能性が高いです。
他の市等の対応
さてこの神奈川県生活交通確保対策地域協議会への京急バスの申請ですが横須賀市はどのように取り組むのでしょうか?横須賀市の事例は発見できませんでしたので他の市等の事例を見ていきます。
小田原市では、平成24年(2012年)1月に設立した「小田原市生活交通ネットワーク協議会(市民代表、交通事業者、行政等で構成)」において、公共交通のあり方について検討を行いました。
この結果、将来的に持続可能な公共交通ネットワークを構築するため、平成25年(2013年)3月に「小田原市地域公共交通総合連携計画」を策定し、事業を推進しています。
また、バス事業者から路線退出等の意向が示された場合には「神奈川県生活交通確保対策地域協議会(国・県・市町村・バス協会などで構成)」において、生活路線としての必要性を検討し、移動手段の確保方策について協議を行っています。
今後も、重要な生活交通である路線バスの運行を続けていくために、積極的なご利用をお願いいたします。
バス路線の退出等の状況について@小田原市より
最も申出が多い県西部の中心都市小田原市での取り組みを見ますと地域公共交通総合連携計画の様な横須賀にはない取り組みはありますがバス会社の申出に対して住民との調整を行う協議会などの設置は行っていないようです。
横浜市営バス路線の再編成については、リーフレットやホームページなどでお客様にお知らせし、すでにたくさんのご意見が寄せられています。この度、この再編(案)についての説明会を、交通局及び道路局、都市整備局合同で開催することといたしました。
説明会は、市営バスの運行エリアを4つの地域に分けて、それぞれ2回ずつ(平日及び土曜か日曜に1回ずつ)、同じ会場で開催いたします。
横浜市営バス路線の再編成に関する地元説明会の開催について@web archive(横浜市2006/10/5)より
ただし、相当なレアなケースですが2007年前後に横浜市で市営バスの事業規模適正化と採算性改善を目的に施行された路線移譲・再編成では58路線の再編、合計38路線の非常に大規模な退出意向提出となったのもあってバス事業者である横浜市交通局と、交通政策に関わる各部署により合同の説明会が開催されたようです。
1 趣旨
市内の生活交通として必要なバス路線(横浜市生活交通バス路線)を維持するため、 事業者に補助金を交付し、市民の日常生活の利便性を確保します。
2 補助制度の概要
(1) 補助事業対象路線
神奈川県生活交通確保対策地域協議会において路線の維持が必要と認められ、 市長が指定した路線で、補助事業対象要件を満たす路線。
生活交通バス路線維持制度@横浜市
1 経過
市営バスの暫定運行路線(8路線)は、平成18年度における58路線再編時に、市営バス事業の経営上、または民間路線等と競合していることから廃止または一部廃止すべき路線として位置づけましたが、お客様の多くの存続の要望を踏まえ、市は「市営バス路線暫定運行事業」を創設しました。
その内容は、暫定運行路線を激変緩和措置として2年間に限り運行する路線とし、交通局が市の補助金を受けて、市営バスを運行するというものです。
暫定運行路線の営業路線化について@横浜市交通局
そしてこの時は再編・廃線規模が大きかったことで廃止される市営バスの路線を京急バス等民間企業に移管するために生活交通バス路線維持制度を設定し、基準を満たした企業に対し補助を実施しています。この制度は現状でも続き基準を満たした事業者(横浜市営バス含む)に対し補助金を支出してバス路線の維持を行っています。
神奈川県内の乗合バス事業者(神奈川中央交通株式会社、富士急湘南バス株式会社、相鉄バス株式会社)が、国の地域公共交通確保維持改善事業費補助金を活用して、路線バスの確保維持を計画しています。
この計画について、皆さまから意見募集を行い、協議が調いましたので、結果をお知らせします。
なお、事業目標を達成するために行う事業については、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、実施しない場合があります。
地域公共交通確保維持改善事業費補助金交付要綱に基づく令和3年度生活交通確保維持改善計画の策定について@神奈川県2020/8/31より
事業者が単独で維持することが困難な地域間幹線系統のうち、国庫補助金の活用により、以下の7系統を確保維持することを目的とする。
この事業の対象とする系統は、いずれも沿線地域の住民の通勤・通学、通院等に利用され、不可欠となっているため、確保維持する必要がある。
神奈川県の策定する「かながわ交通計画」では、既存の交通網を生かした公共交通の充実と、高齢者、障がい者をはじめ、誰もが利用しやすく、安全で快適に移動できる環境づくりを推進することとしており、これら地域間幹線系統を確保維持することは、本計画の目指す地域交通のあり方とも整合している。
生活交通確保維持改善計画(地域間幹線系統確保維持計画)@神奈川県2020/7/29より
また国の補助金を利用して維持するケースもあります。上は国の地域公共交通確保維持改善事業費補助金を用いたケースです。地域間幹線系統確保保持計画によるものと言う事で今回の京急ニュータウン野比海岸に対しては用いられない可能性も高いですが、参考と言う事で書いておきます。
市民と市担当者に臨む事
さてここまであくまで個人的な見解と言う事で書いてきましたが、僭越ながら市民の皆様と市の交通政策担当者の皆様へのお願いを少し書きます。
利用することと正当な手段で地域の意思を担当者に伝える事~市民の皆様に望む事~
まず市民に皆様に関して望むのは公共交通を残すためにまず利用してください事です。日本の公共交通は「独立採算で世界の潮流からずれている」と言われますが逆に言えば採算がとれるほどの利用があれば廃止の俎上に上りづらいとも言えます。また多くの利用者が利用している交通機関に関しては政治的な意味合いでも廃線にはしづらいと思われます。
そしてもう1つ望むのは仮に廃線となるバス路線が出たとして廃線に反対だったとした際にそれを地域の意思としてきちんと行政や交通事業者へ正式な手続きをもって伝えてほしいという事です。例えば横浜市の生活交通バス路線維持制度の場合、もともと大規模な路線の改編で何らかの対応が必要だったとはいえ、利用者の要望が後押しになってできたという制度です。ここまで大きな制度は無理にしても周辺のバス路線にバス停を追加してフォローするなどやれる手は浮かんでくるかもしれません。そしてその為にはクレーマーのようになるのでなくあくまで正当な手続きで行ってほしいという事です。
地域公共交通を守るための知恵袋となってほしい~政策担当者に望む事~
今回のようなバス路線の廃線に関して、この2年近いコロナ禍においてバス事業者である京急バスの乗客減によるダメージが大きい事を考えると今後こういった話が増えてくる可能性が高いです。そして横須賀市の交通政策担当者は間違いなく小田原市や横浜市の担当者に比べて廃線の申請が事業者から出てきた際のどう対応するかのノウハウは少ないはずです。それは担当者の怠慢でも市民の不幸ではなく横須賀の公共交通がなんだかだいって順調に運営されてきたという意味で幸福な事でした。
そんな中で交通政策担当者には2つの事を高めていってほしい言うのが交通政策担当者への望みです。
2つの事の1つは法や制度に関して精通していてほしいという事です。ただ少なくとも現状横須賀市の交通政策担当者が不勉強と言う意味合いではないです。例えば地域交通支援事業(ガイドライン)を見ると他の市の制度を参考にしつつ、横須賀市の実情も踏まえたよく考えられた制度でありきちんと他市の制度などを勉強しているように感じます。しかし体験の少ないバス路線の廃線に関する申請への対応に関してはこれから学ぶべきことは多いと思います。それを怠らないでほしいと思います。
2つの事のもう1つは地域を極めていってほしいという事です。上の画像は国土交通省の地域公共交通活性化再生法の改正に関する資料の地域公共交通計画に関する部分を抜き出したものです。見ると地域旅客運送サービスでは鉄道・バス・タクシー・旅客船など既存の公共交通に加えてスクールバスや商業施設・病院の送迎サービスなどの活用も図で示されています。この地域公共交通計画自体は廃線の問題が出てきたときに直接的に関係するものとはいいがたい部分がありますが、ただその考え方は廃線の問題が出てきたときに活用できると思います。横須賀市で言えば富士スーパーやイオンなど送迎用の無料バスを走らせているケースがあり、地方都市では写真にある群馬県高崎市のイオンモールの様に有料の路線バスをSC内に整備したバスターミナルに乗り入れさせたり、広告ラッピングを行ってバス会社の増収に結び付く、あるいはSCの負担で土日祝日に小中学生の利用を無料にするなどの事を行っているケースを見かけます。そういった存在を活用して路線バスの寿命を延ばすという事は考えられますし、また最悪廃線となった際にこういった送迎バスを活用することで買い物弱者の発生を抑えるという事も可能になると考えます。また当然のことながらバス路線の運行ルート、バス停の位置、地域の地理をきちんと把握しておくことで既存のバス路線の活用、バス停の増設などで廃線時にできるフォローの幅が広がるというのは言うまでもありません。当然現状でも交通政策担当者がその努力をしていないとは思いませんがこれまで以上にそこに磨きをかけてほしいと思います。
如何だったでしょうか?バスをはじめとする公共交通に厳しい時代ですがその中で公共交通の維持発展に役立ってくだされば幸いです。
参考サイト
神奈川県生活交通確保対策地域協議会
地域公共交通活性化再生法の改正@国土交通省
バス路線の退出等の状況について@小田原市
生活交通バス路線維持制度@横浜市
地域公共交通確保維持改善事業費補助金交付要綱に基づく令和3年度生活交通確保維持改善計画の策定について@神奈川県2020/8/31
地域交通支援事業(ガイドライン)@横須賀市
かながわ駅からバス路線案内
「はまちゃんバス」Go!!~横須賀のバスを考える~
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